Django à la Clarinette

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ポップスやラテン、モダンジャズまで守備範囲の広いクラリネット奏者・山本太郎と、ブルーグラスやウエスタンスイング、ジプシージャズの職人的ギター奏者・長谷川光。二人の共通項であるトラッドジャズ上で、Djangoスタイルを取り入れたデビュー・アルバムです。

このアルバムの全録音は、今現在最も音の良い録音方式と言われるDSD(Direct Stream Digital)を使い、二人並んで一気に録った一発録音で、演奏の手直しを一切していません。ですから演奏自体は大変荒々しい、あるいは弱々しい部分が多分に記録されており、それがライブ感を演出しています。(録音当日は急な嵐に見まわれ、音の良さが災いし、よく聴くと雷鳴のようなノイズも残っています。)

管楽器と弦楽器は演奏に適したキー(調)が違います。このアルバムではジャンゴが弦楽器のために書いた曲を、クラリネットが果敢にもオリジナルキーで演奏しています。

ジプシージャズでのデュオ演奏では、ギターは決してソロを弾かずに伴奏に徹するのが通常ですが、このアルバムは演奏者がジプシージャズのスタイルに拘っていませんので、ギターもほぼ全曲ソロを取ります。

クラリネットとギターのデュオ演奏としては、かなりシンプルながら前例の無い取り組みを行いました。

現在、月に一回やっている西荻窪のミントンハウスでのライブの臨場感を、最上の音質と気の利いた選曲でお楽しみいただけるはずです。

■ ご購入

長谷川光に直接お問い合わせいただくか、下記ページにて便利なオンライン販売もしておりますので、ご利用ください。

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■ 収録曲のご紹介

Nuages
Djangoのオリジナル曲。パリ陥落数カ月後の1940年10月初演。ヒトラーはアメリカ文化であるジャズと異民族を憎み、ユダヤ人だけではなくロマ(ジプシー)の人達を相当虐殺した。とりわけジャズを演奏するジプシーであるDjangoは身の危険を感じ、ジャズっぽくなく芸術的な作品を演奏しようと試みた。その代表曲がこの曲。幸いなことにかなりのヒットを記録し、戦後もアメリカのプレイヤーが取り上げるような代表曲になった。また、ジャズ好きのナチスの将校に保護され、戦中を通じて音楽活動を妨げられることは無かった。

Place De Brouckère
Djangoのオリジナル曲。1942年4月、戦火を逃れ中立国のベルギー、ブリュッセルでビッグバンドを従えて録音したのが初演。ただのダンス用のブルースではなく、変拍子を取り入れたリフと転調するインタールードが面白い。デュオでこの曲を演奏するのは他に聴いたことがない。

Muskrat Ramble
トロンボーン奏者Kid Oryの作曲で、Oryが参加していたLouis ArmstrongのHot Fiveで1926年2月に録音したのが初演。本来はトランペットのアルペジオメロディにトロンボーンのテイルゲートが絡む佳曲であるが、長谷川のアイデアで、スタジオに転がっていた普通のフォークギターを拝借し、Djangoを愛したClarence White流儀のブルーグラスギター奏法で全体を演奏してみた。

Douce Ambiance
Djangoのオリジナル曲。Djangoが初めてクラリネットのために書いたとされる佳曲。1943年2月の初演では、クラリネット2本でハーモニーを作っている。メロディはフランスっぽいがDjangoぽくなく美しい。D音のみで奏でられるイントロとエンディングが特徴的なため、僕らはレレレの曲と呼んでいる。

Artillerie Lourde
連合軍のパリ解放を喜んだDjangoが1944年に作った曲で、11月にNoel Chihoust楽団で吹き込んだ。Glen MillerのTuxede Junctionに似た重厚なテーマリフは、凱旋門をくぐってパリに入場する連合軍Artillerie Lourde(重砲兵)の足取りそのものではないだろうか。二人のデュオでは、特にその重々しさを表現しようとした。

Bei Mir Bist Du Schöen
Ella Fitzgeraldの1937年の名唱が記憶に残る、ユダヤ歌曲出典の古い小唄。日本では「素敵なあなた」というタイトルで、ジャズ・ボーカルを志す方々によく歌われる。ここでは歌はなく、山本のよく歌うクラリネットを堪能して欲しい。

Djangology
1935年9月初演のDjangoの初期代表曲で、人生を通じて7回の録音が残っている。アメリカの歌もの主流の楽器演奏ではなく、独特のコード進行とアルペジオメロディが美しい完全な器楽曲。吹きにくいオリジナルキーのGで山本が軽やかにスイングする。クラリネットでこの曲を演奏するのを他では聴いたことが無い。

Satin Doll
Duke Ellington楽団の戦後の代表曲として超有名なこの曲を、ありえない、クラとギターのデュオで演ってみた。Poll WinnersでのBarney Kesselの名演があり、ジャズギターの人は比較的レパートリーにするみたいだが、ジプシージャズ・ギターでは聴いたことが無い。

Swing 39
Stephane Grappelliと快別する直前の1939年初演のDjangoのオリジナル曲。Djangoの曲にはSwing NNというタイトルの曲がいくつかあって、安易な命名だが、数字は作曲した年を表しているようだ。トーナリティが解り辛い平行移動するだけのコード進行で、なぜこのメロディを作れたのか不思議だ。

Mélodie Au Crépuscule
英語ではLove’s Melodyとタイトルが付けられた大変美しいこの曲は、一説には弟のJoseph Reinhardtの作品とも言われているDjangoのオリジナルで、元々は歌のあるシャンソンとして作られた。1943年の自楽団の初演では女性ボーカルがメインだ。ジャズっぽくないこの曲もナチスに対しての隠れ蓑だったかもしれない。

Nyancology
このアルバム唯一のオリジナル曲で長谷川の作曲。著作権が切れた耳に馴染みのあるメロディを自然に繋ぎ合わせたようにも聴こえるが、Djangoへのリスペクトとオマージュを演奏から感じていただければ幸いだ。ちなみに山本と長谷川は飼い猫を介した義理の親戚でもある。

High Society
1901年4月作曲の大変古いラグタイム調の曲で、ニューオリンズ・ジャズやディキシーランドでよく演奏される。トランペット、トロンボーン、クラリネットの三管の軽快なアンサンブルがお馴染みだが、敢えてクラとギターのデュオで録音した。元々はAlphonse Picouが考案したとされるクラの例のソロに、ブルーグラス・スタイルのギターランが絡む様は、たぶんどちら様も初めて耳にすることと思う。

Swing 48
Swing 39と同じく、Djangoのオリジナル・コンポジション。ただ、これは1948年作曲ではなく、1947年のようだ。Djangoは1946年の最初で最後の渡米の際に、ビバップの洗礼を受けて帰仏したとされる。つまり、理解できる限りのビバップのお作法で作った初期の作品ではないだろうか。ここでのデュオは、ビバップ、何それ美味しいの?と言わんばかりの古風でホットな録音ではないだろうか。

Lover Man
Billie Holidayの名唱やCharlie Parkerのラリった録音でお馴染みのバラードだが、Djangoも戦後すぐにカバーしている。4番目の名演となるべく、デュオで果敢に挑戦してみた。

Daphné
ギリシャの神様の名前から名付けられたDjango作曲の器楽曲。ほぼリフのようなシンプルなメロディを持ち、AABAのBが半音高いだけという安普請な曲だが、Djangoは人生で8回も録音している。初演は1937年で、アメリカから来ていた黒人バイオリニストのEddie Southを招き、Stephane Grappelliとツイン・バイオリンで録音されている。他の収録曲同様、この曲もデュオで演るようには作られていないが、特筆すべきは、Dというありえないキーでクラリネットがゴキゲンにスイングしているということだ。

Noto Swing
Djangoではなく、ドイツのLulu Reinhardtというギタリストが1980年代に作曲した、このアルバム収録曲の中で唯一のジプシージャズの楽曲。Luluは他にもジプシージャズの名曲をたくさん書いている。

Stardust
ご存知Hoagy Carmichaelの1927年作曲の小唄。アルバムの最後は熱く切なく歌い上げる山本のクラをお聴きください。

■ お試し聴き